福岡・佐賀・長崎・熊本の4県に囲まれる有明海ですが、当店で扱う商品のほとんどは地元、熊本県産の海苔です。熊本産の有明海苔は、福岡や佐賀のものに比べるとかたくなることが多く、味の乗りがよいのが特徴です。渡辺海苔では、機械を使って味や風味を均一化したものではなく、バラツキのあるものの中から良い味のものを選んで仕入れています。代表取締役の渡辺泰司さんは「長年の経験で手に持った時の感覚や色で大体の味が予想できます」と言います。その海苔を見極める目は本物で、毎年海苔の初摘みシーズンになると関東の小売り業者がわざわざ買い付けに訪れるなど、プロからも厚い信頼が寄せられています。

店内の至るところに並ぶさまざまな海苔の中で、同店イチオシの商品が「有明海産○等級初摘み焼のり」です。他の商品と見分ける上で特徴になるのが、表面全体に見える細かな穴。穴が開くことで目が詰まらず、風味を残したまま口の中でとろける食感を生み出します。噛んだ時の歯切れも良く、ご飯を包んで食べると口の中に海苔本来の味が広がり、一枚で茶碗一杯分のご飯がペロリと平らげられます。海苔嫌いだった子どもが○等級の海苔を食べたことで克服できたという話もあるそうです。最高品質の海苔として、いろいろなところで人気になりそうな商品ですが、穴が開いているためコンビニやスーパーなどでは扱われず、他のお店ではなかなか手に入りません。有明海苔に精通し、味の違いをよく知る渡辺さんだからこそ生み出せた商品で、長年の経験が付加価値を与えています。

海苔の生産額で日本一を誇り、良質な海苔を全国に提供している有明海ですが、近年の気候変動が海苔の生産にも影響を及ぼしています。海苔の種付けは、通常なら水温が下がる時期に2回行いますが、ここ数年の水温の上昇により時期を後ろにずらし、種付けを1回に減らしています。品質は今までと同じように保たれているものの、その分生産量は毎年落ち込んでいます。こうした現状を憂いながらも渡辺さんは、少しでも多くの人がおいしい海苔を食べてもらえるように、海苔をふんだんに使った佃煮やふりかけなども開発し、海苔の需要がなくならないよう努めています。かつてどのご家庭にも置いてあった海苔が日本の食卓からなくならないように、地元の生産者とも協力しながら海苔の価値を全国に発信し続けています。